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東京高等裁判所 平成元年(ラ)236号 決定

抗告人 甲野太郎

相手方 トピー建設有限会社

右代表者代表取締役 山崎英幸

主文

一  原決定を取り消す。

二  相手方の本件不動産引渡命令の申立を却下する。

理由

一  抗告人の本件抗告の趣旨及び理由は、別紙(一)、(二)のとおりである。

二  一件記録によると、抗告人は、昭和六二年一月一六日、静岡地方裁判所沼津支部において破産宣告を受け、弁護士伊藤哲夫が破産管財人に選任され、現在も右破産手続は進行中であること、本件引渡命令の対象となった土地建物(以下「本件不動産」という。)について、右宣告後の昭和六三年一月二二日、抗告人の債権者から、抗告人を債務者兼所有者とし、破産管財人を手続の相手方として、抵当権に基づく担保権の実行としての競売申立がされたこと、その後右手続は進行し、特別売却の手続が実施され、相手方が買受人となり、平成元年三月八日原審裁判所の売却許可決定を得て、同月二〇日代金を納付し、本件引渡命令の申立に至ったこと、ただ相手方は、破産管財人ではなく、破産者本人である抗告人を引渡命令の当事者として右申立をしたこと、以上の事実が認められる。

ところで、破産宣告によって、破産財団に属する財産の管理処分権限は破産管財人に専属し、破産者はその権限を失うことになるが、本件不動産の所有権が相手方に移転し、債務者兼所有者であった抗告人に本件不動産の占有権限がなく、その引渡義務のみが残存していることが明らかな本件のような場合にあっても、その引渡義務の履行は、管財人の管理処分権限に属するものと解すべきであるから、本件引渡命令は管財人のみを相手方として発令すべきである(なお、本件引渡命令が破産者である抗告人を相手方として発令されている以上、破産者自身も、右決定に対して抗告することができると解せられる。)。

してみると、破産者である抗告人に対して本件不動産の引渡を命じた本件引渡命令は、違法であって取り消しを免れない。

よって、原決定を取り消して、本件不動産引渡命令の申立を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 鈴木経夫 浅野正樹)

〈以下省略〉

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